COVID-19 : これまでとこれから

世界的なパンデミックはまだ収束していませんが、生活を維持するために、あるいは政治的、経済的な観点から、図書館のサービス再開が始まっています。緊急事態宣言が発令され、全国の公立図書館の92パーセントが休館しました。5月21日にsaveMLAKプロジェクトが実施した調査では休館率は47パーセントに減少し、半数以上の図書館がサービスを再開しています。ただし、感染リスクは継続しており、引き続き命を守るための対策が必要です。

私たちにできること

このセクションでは、一般的な感染症対策に加えて、カーリルのユーザーにお願いしたいこと。つまり、図書館のユーザーが工夫できることをまとめました。この情報は、更新内容を明記して随時更新します。有効な対策のアイデアは @caliljp までお寄せください。

本を読むまえ、読んだあとに手洗いをする

手洗いの慣行は、感染症対策に効果的です。図書館においては「書籍消毒機」と呼ばれる高額な機器の整備が進んでいます。これらの機器はユーザーの安心にはつながるかもしれませんが、そもそも図書館内でしか利用することができません。図書を介した感染リスクは高くないと考えられていますが、その他の感染リスクも考慮すれば、手洗いが引き続き合理的です。

(6月1日追記)ポスターをクリエイティブコモンズライセンスで公開しました

埼玉県立図書館によるツイート

図書館への訪問回数を減らす

多くの図書館で、貸出期間を延ばしたり貸出冊数制限を緩和するなど、図書館への訪問回数を減らす取り組みが始まっています。インターネット予約を活用することで滞在時間を減らすことができます。急がないでください。サービス再開からしばらくの間は、貸出の集中により図書館スタッフにも負荷がかかっている点に配慮しましょう。

オンラインやほかの代替手段を検討する

十分に資金的な余裕があり、電子書籍など代替アクセスの手段が提供されている場合には、代替手段の利用を優先してください。図書館のみならず、出版社や著者も含めた出版エコシステムの維持につながるとともに、接触機会を減少し、感染拡大も抑制することができます。小規模な書店などでもオンライン販売の試みが始まっています。また、必要とする資料が青空文庫や、国会図書館デジタルコレクションに収録されている場合にはインターネットからアクセスできる場合があります。

図書館からのアナウンスに従う

全国の図書館で、サービス再開に向けてさまざまな対策が模索されています。これらの対策は、とても効果的なものもあれば、的外れなものもあるかもしれません。また、公平性やプライバシーの観点から受け入れがたいこともあるかもしれませんし、図書館によって基準や方針がまったく異なるかもしれません。まずは、利用する図書館からのアナウンスに従うことが重要ですが、より正確な知識の入手に努めましょう。図書館ユーザーはこのようなとき、感情ではなく知識で対処するべきです。

読書に関するオンラインイベントを開催する

図書館が再開されたとしても、これまで実施されてきたさまざまなイベントは引き続き中止されています。オンライン・ビブリオバトルや、オンライン読書会を図書館が開催する事例も出ています。もちろん、図書館の取り組みを待たなくても、ユーザーの連携によりイベントを開催することができます。

参考となる情報

公共図書館を使う人と公共図書館で働く人のウイルス感染症対策をライブラリアンなりに考えてみた(Satomi Kojima作成)
saveMLAKプロジェクト「COVID-19対応のベストプラクティス共有」
新型コロナウイルス影響下の図書館:再開に向けた取組


カーリルのこれまでとこれから

このセクションでは、自分たちが忘れないために、カーリルでのこれまでの対応についてあらためて振り返り、今後の対応方針を明確にします。

これまでの振り返り

2月5日~7日、カーリルは、全国の自治体などを対象にした展示会「地方創生EXPO」に出展しました。この時点での国内感染者数は0人(出典:NHK特設サイト)、クルーズ船の対策が取られていた時期でした。しかし、多くの人と会って会話をすることには不安がありました。この時購入した使い捨てマスクは、このあと役に立ちました。

2月16日に「COVID-19対策に関するご協力のお願い」を発表します。この段階では国内の感染者数は59人(出典:NHK特設サイト)、いくつかの地域で感染者が確認されていたものの、その後の事態を予期できるような状況ではありませんでした。翌日以降には病院図書室との打ち合わせも予定されていましたが、COVID-19の影響で病院内での打ち合わせが難しくなるなどの影響が発生していました。そのため、サービスの安定的に提供を優先し、また感染拡大につながらないよう、対面での打ち合わせを停止することにしました。この段階では、カーリルが出張を停止していたとしても、社会的機能は通常通り維持されており、各種の会議などは引き続き継続されていました。このような中で、ストレスなく業務遂行するための対策として、ウェブミーティングキットの準備を進めました。

2月28日に発表された一斉休校の前後、カーリルのアクセス数は、大幅な増減を繰り返しました。このころには、一部の地域の公立図書館は休館となりましたが、予約受取などを実施する図書館も多くありました。日々の自治体の発表にあわせてアクセス数が変動していました。

3月9日、「COVID-19 : 蔵書検索サービスへの影響について」という発表をします。休館した図書館が検索サービスも停止したことにより、カーリルへの問い合わせが増加していました。今後このような対応をする図書館が増加することが見込まれたたため、同様の対応を抑制する必要があると考えました。また、さらにシステムが停止した場合に対応するための、具体的な対策について検討を開始しました。

3月30日、「COVID-19 : イベントへの参加方針について」を発表しました。この発表では、カーリルが出展する展示会の中で規模が最も大きい「図書館総合展」への参加を見送るというものでした。この展示会は11月開催ということもあり、現時点でも開催は決まっていません。しかし、2月に出展した地域創生EXPOの経験から、メンバーや参加者に感染リスクがある状況では、参加することはできないと判断しました。一方で、このような展示会の機会はカーリルにとって引き続き貴重なものであり、イベントそのものの継続を支える必要があると考えています(このとき、図書館総合展に向けて確保していた横浜のホテルをすべてキャンセルしました)。

4月7日、政府による緊急事態宣言が発令されました。

4月8日、カーリルでは「COVID-19 : 多くの図書館が閉館しています」を発表しました。すでに全国で多くの図書館が休館していることが分かっていましたが、これらを網羅的にまとめた情報がありませんでした。一方で、カーリルは、全国の図書館のウェブサイトのURLを把握しているため、図書館の開館状況を効率的に確認することができました。しかし刻々と状況が変化していたため、短時間ですべての図書館のウェブサイトを目視で確認する必要がありました。この発表と同時にカーリルすべてのページのヘッダーに、このブログへのリンクと「Stay at home. Keep reading!」というメッセージを掲載しました。このころになると、休館にともないカーリルへのアクセス数も、前年比の6割程度に減っていました。この調査はその後saveMLAKプロジェクトに引き継がれました。

4月19日、「COVID-19 : 蔵書検索を停止した図書館のバックアップを提供」をリリースしました。カーリルの内部では「キャッシュOPAC」と呼んでいたもので、分散して保存されていた過去のログデータやキャッシュを統合し、仮想的な蔵書検索サービスを立ち上げました。4月10日ごろに、サービス投入を決めてから7日間程度の開発期間で提供開始することができました。今後さらに感染が拡大した場合には、多くの図書館システムの運用が長期間、困難になることを想定しており、Twitterでは「カーリルは、いまはアクセスできなくても「あることがわかる」を可能な限り維持します。」と発信しました。

4月後半になると、拡大する感染者数を前に先を見通すことはとても困難な状況になっていました。カーリルのメンバーは、岐阜、東京、京都に分散して活動しているため、各地の状況を共有することも日課になりました。そのような中で、よりユーザー目線での新しいサービスを展開できないかという声が上がりました。これが4月28日に公開した、「カーリル ブックウォーク」につながりました。このサービスは、とにかくゴールデンウィーク前に、完成したところまでリリースすることを目標に、実質5日程度で開発が進められました。

4月24日、「COVID-19 : 学校向け蔵書検索サービスの無償提供について」を発表しました。このころになると、カーリルの社内では、「やれることはやろう」といくつものプロジェクトが並走しており、10年間のカーリルの歴史の中でも、もっとも働いたと思える瞬間でした。

5月以降、学校図書館向けの蔵書検索サービスの展開が開始されました。提供開始から約1か月で、小学校から高校まで約100校に提供されました。

今後の方針

“COVID-19と図書館”というテーマに関して、カーリルのようなウェブサービス事業者、図書館、もちろんユーザーも含め、ひとりひとりがそれぞれ記録し、それを残していく必要があります。記録を通して、今回の対応を検証し改善することができます。少なくとも、今回得られた知見は、今後の感染症対策のみならず、図書館の利用が制限されるさまざまな場面での参考となるはずだからです。まずは、その第一歩としてこのブログを書きました。

対面打ち合わせの廃止など、生産性向上への取り組みは、これまでにないスピードで浸透しました。このような中で、私たちが生き残るためにも、かつての業務スタイルに回帰する生産性の低い事業者や関係機関との取引を積極的に整理します。

パンデミックは収束しておらず、引き続き感染拡大に備える必要があります。また、COVID-19の経済への影響は甚大であり、中期的には、公共機関の予算削減による影響が懸念されます。このような場合でも図書館業務を継続できるよう、システム等のインフラコスト削減に向けた技術開発に積極的に投資します。

最後に、「災害への『しなやかな強さ』を持つMLAK機関をつくる」(MLAK=図書館、美術館・博物館、公民館)に賛同します。これまで、日々変化する状況の中でまずは「できること」に対応してきました。しかし、今後はより長期的な視点をもって取り組んでいく必要があります。そのために連携して、また議論していきます。

株式会社カーリル
代表取締役・エンジニア
吉本龍司

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