図書館デジタル化の波紋、パブリックアクセスと出版は両立するか

※記事タイトルの「オープンアクセス」をより正確に「パブリックアクセス」に変更しました (6/22 17:38)

国立国会図書館が、34万冊以上の著作権処理が完了した本や雑誌をインターネットで公開している近代デジタルライブラリー。この図書館資料のデジタル化をめぐって巻き起こった議論を追いました。

刊行中の本の公開は死活問題

近代デジタルライブラリー、通称「近デジ」が今月になって、インターネットで話題を呼びました。
インターネットに公開されたデジタル化資料が日本出版者協議会の要望により一部が一時公開停止になっているという話です。
この対応をめぐってスラッシュドットTwitterなどインターネット上では、出版社側に批判の声が集まりました。
そこで、公開差し止めを要望した「大蔵出版」の社長、青山さんにお話を伺いました。


当初は正当だという理由で取り合われなかった

大正新脩大蔵経』全88巻が突然近デジ上に公開されたのが2007年。この本は現在も刊行中で、1冊2万円もする高価なものです。国会図書館にすぐ抗議しましたが、著者没後50年を経ており著作権保護期間が切れている、正当だという理由で取り合ってもらえませんでした。

弁護士に相談したのですが、著作権切れの法的根拠があるから難しいとのことで、諦めました。
今年の『出版ニュース』4月中旬号で改めて意見表明をしたところ、国会図書館と会談の場を持つことになり、大蔵出版は日本出版者協議会の一員として出席しました。その結果が今回の発表です。

ヨーロッパでは著作権が切れていても、現実に全集が売られているならば民営を圧迫しないという例もあります。大蔵出版は大正時代に出版された『大正新脩大蔵経』をきちんと復刻して出版するという趣旨の会社。それを否定されたら残るものがありません。国立国会図書館の判断は、この部分を尊重してくれたのだと思います。

批判が続出することは全く予想していなかった

インターネットでの反応は見ていません。著作権が切れているのだから、公開してもよいだろうという批判が続出することは全く予想していませんでした。いくら著作権切れとは言え、現在刊行中で実際書店に並んでいる作品であるということを全く無視して、無断でインターネットに公開すること自体が商業道徳に反するのではないでしょうか。

青空文庫のようなデジタル化にどうこう言うものではない

青空文庫のようなデジタル化プロジェクトについては別段何も思っていません。私が言っているのは、著作権切れになっていても実際に出版社が継続して売っているもの。夏目漱石の作品などと今回とは全然性格が違うので、どうこう言うものではありません。

『大正新脩大蔵経』の現物はずっと売られ続けているし、ワンセット149万円(税抜)もする資料です。本書は1960年~1979年の19年もかけて復刻したもの。昔の本の写真を1枚1枚撮って、本当に手間をかけている。1977年に遺族から著作権も買い取った。遺族との絆もある。そういう意味では、その50年後の2027年までは大蔵出版の著作権保護期間であると考えることもできます。
過去には安い海賊版に悩まされた時期があり、大蔵出版も豪華本から並製本に変更することで価格を抑え対抗してきました。そして今度は「国会図書館がデジタル海賊版を公開する」という事態になりました。

-図書館についてはどう思いますか

大蔵出版の書籍の購入先は多くが寺院。その次が大学図書館で、公共図書館もあります。
県立図書館などは、豪華本を使い古してしまったため展示用として、並製本を閲覧用としているところなんかもあります。図書館に買っていただくのは非常に重要で、利用者が図書館の中で読める、ということは問題ないと思っています。

-今後、近デジや青空文庫のようなデジタル化資料が増えた場合、共存は可能でしょうか

それについてはあまり考えていません。
今回の出版協の申し立てでは、著作権切れでも実際に流通しているものについては、近代デジタルライブラリーで公開しないでほしい旨を国立国会図書館に伝えました。また、著作権者がわからなくなっているものは、最初に復刻した出版者に著作権を付与するべきではないかとも伝えました。

(インタビュー:杉山@カーリル
※『大正新脩大藏經』については大蔵出版が90年代にデジタル化公開の許諾を仏教学界に対して行っており、その結果、SAT大正新脩大藏經テキストデータベースで全文テキストも頁画像も公開されているとのご指摘をいただきました。説明不足があり大変申し訳ありませんでした。(吉本・6/22 18:50)

デジタル化資料をきっかけに紙で復刊

2013年6月20日、彩流社から『エロエロ草紙【完全復刻版】』が発売されました。
実はこのタイトル、近代デジタルライブラリーの閲覧数ランキング1位の人気資料です。それを今回、紙の書籍として刊行することになったのはどういった経緯なのでしょうか。
彩流社の担当、高梨さんにお話を伺いました。

市場に出回ってないのであれば「本になる!」と思った

『エロエロ草子』は昨年の10月頃にFacebook経由で知りました。アクセス数が5ヶ月連続1位をキープしているとか。そんなのがあるんだ、と少し調べてみたら、製本の段階で発禁処分になった本だということがわかり、市場に出回ってないのであれば「本になる!」と思いました。

内容を確認しようと思って近代デジタルライブラリーでダウンロードしてみましたが、中身がどうこう言う前に、文字がはっきり読めなくてイライラするんです。一般の読者も同じ思いをしているのではないかと思って、やっぱり書籍化したいというのが最初でした。

復刻の許可を求めたら怒られると思っていた

国立国会図書館のデータをもらうことは全く考えていませんでした。復刻の許可を求めたら門前払いを食らうのではないか、怒られるのではないか、と思っていました。

復刻のために原本を手に入れたいと思って、神田神保町や早稲田の古書店街を回ったり、研究者に声をかけたりしてみました。しかし、タイトルを聞くと皆「それはない」と即答するんです。しばらく探しましたが見つからなかったので、今年の4月に仕方なく国立国会図書館に行くことにしました。

カラーだということに衝撃を受けた

実物を見たとき、カラーだということに気づいて衝撃を受けました。今、市場に出回っているものは全てモノクロ。当然一般の人もカラーで見たら驚くだろうし、嬉しいはずだと、ますます出版したい意欲に駆られました。
原本は現物はシミだらけでぼろぼろ、破れているページはあるし、糸かがりは外れているし、水に濡れたかのように紙がベコベコになっているところもある。

復刻出版したい旨を申し入れましたが、図書館の役割は資料の提供とともに、後世のために資料を保存することだから、この状態の貴重書は複写許可できないと断られてしまいました。

世の中に「読みたい」という欲求があるのだから、何としても出版したい。別の部署にも依頼してみて、最終的に、デジタル化データはどうしても出すことはできないが、今回だけ特別に原本の複写を許可してもらえることになりました。

原本はひどい状態で退色もしていたので、デザイナーの渡辺さんが80年前の色を想像したり、足りない部分を補って再現してくれました。製作過程はブログで公開しています。

図書館にも置いてほしい

市町村の各図書館にも置いてほしいですね。当時の風俗を知る文化的な資料としても十分価値がある。『エロエロ草紙』というタイトルから青少年に悪影響を与えると敬遠する気持ちもわかるが、隠せば隠すほど、こういった文化が地下に潜ってしまう。国立国会図書館でも公開されているものだから、どこの図書館に行っても見られる状態になっていてほしいです。

権利関係は難しい

近代デジタルライブラリーはモノクロだし、全く別のもの。むしろ宣伝してくれていると思っているくらい。デジタルでは再現できない仕掛けもできたし、今回の復刻版はとてもいいものができたと自信を持っています。
正直なところ、版元には著作権もないし、法律的には全く守られていない状態。今回の復刻に際しても、データ補正などにかなり手間隙がかかっています。できるのならば©(コピーライト)をつけさせてほしいところ。その辺りの権利関係は難しいです。

近代デジタルライブラリーで人気があった別の作品を復刻することも検討したいと思っています。国立国会図書館は敷居が高いと思っていましたが、今回の経験で親しみを感じるようになりました。彩流社自体が、復刻に意欲的な会社でノウハウもある。ぜひやっていきたいと思います。

(インタビュー:杉山@カーリル

改めて図書館と出版を考える

近代デジタルライブラリーに代表される資料のデジタル化は、図書館と出版との関係を考える良い機会になりそうです。今後は、国立国会図書館がインターネットには公開していないデジタル化資料も、公共図書館向けにデータ送信する取り組みが開始されます。

図書館資料のデジタル化が進めば、「建物としての図書館は不要なのでは」という声も多くなるでしょう。国会図書館だけではなく、全国の図書館が、図書館の新しい役割や出版との関係を考えていく必要に迫られることになります。

この問題を巡っては、カーリルの中でもいろいろな意見がありました。デジタル化が進んだ図書館で、自分たちに出来ることは何なのか、さらに議論を深めていきたいと思います。皆さんはどう考えるでしょうか。

(吉本@カーリル

<関連リンク>
近代デジタルライブラリー
エロエロ草紙【完全復刻版】
彩流社
大正新脩大蔵経
大蔵出版
出版協プレスリリース:国会図書館と5日に面談、具体的に成果表れる
国会図書館による著作権切れ書籍のネット公開、出版社側の異議申し立てにより一部を公開停止|Slashdot
青空文庫
国会図書館近代デジタルライブラリーの件で|togetter

学校図書館を、もっと楽しく。埼玉県高校図書館フェスティバルファイナル

埼玉県立高校図書館の司書採用再開を目指してスタートした「埼玉県高校図書館フェスティバル」が、3回目の今年、ついにファイナルを迎えました。

埼玉県立高校の図書館は、司書設置率100%。しかし、2012年度までの11年間、様々な理由により新規採用がなくなっていました。

そこで、学校司書の採用再開を目指す有志が2009年に研究会を発足し、学校司書の必要性を訴えるため、「埼玉県内の司書が選ぶイチオシ本」を選出し、またフェスティバルを開催してきました。

これらの熱い働きかけにより、ついにこの2013年春、新規で3名が県立高校図書館の司書として採用されました。3名とも男性で、高校図書館勤務希望だったとのこと。

待望の新人を迎え、当初の目的を達成したフェスティバルは、今回がひとつの節目となります。

「専任・専門・正規」の司書がいるからこそできる図書館活動とはどのようなものでしょうか。
最後もアツイ、埼玉県の学校司書の皆さんからの報告をお伝えします。

「ともに創る図書館活動」

埼玉県立飯能高校では、現代社会の授業で生徒が新聞をつくります。その際には、図書館をフル活用して資料を集めることが大切だとか。

事前に先生と司書が「薬物乱用」「少年犯罪」「環境問題」等、いくつかテーマを設定し、それに沿って資料(本)を集めます。既存の蔵書の他にも、新しく購入する本もあれば、学校図書館ネットワークで取り寄せた本もあるそう。

生徒は自らテーマを決め、本を選び、新聞をつくっていきます。どうしたら自分の必要な資料を手に入れられるかは、いかに司書とうまくコミュニケーションを取れるかとも関わっているため、生徒は資料の探し方だけではなく、対人関係も学ぶことができるとのことです。

もちろん、この授業のためには先生が司書と連携することが必要です。スムーズに授業を進められるよう、テーマ決めや資料集め等、司書に頼るところも大きいということでした。

埼玉県立秩父高校の事例では、読書会の体験をOBの原康浩さんが語ってくれました。

読書会の実施のためには、参加者は2回、司会者は最低3回、テーマ本を読み込む必要があります。その上で、周りの参加者と自由に感想を語り合い、また自分の体験を伝えることもあるそう。

本に親しんでいない高校生にとって、「本を読む」のは「国語の教科書で、決まった解釈を勉強する」ことだという原さん。しかし読書会では、どんな解釈をしてもいいし、自由に読んでいい。それがとても新鮮で面白いと言います。

司書は読書会のテーマ本決めや本集め等の支援を通して、高校生に読書の楽しさ、自由さを伝えているということでした。

高校生に読んでほしい! 高校司書が選んだイチオシ本

フェスティバルの会場には、司書の皆さんによるきれいな飾り付けとともに、イチオシ本等も展示されていました。

高校司書がピックアップした高校生にすすめたい本のベスト10を、2010年度から毎年2月に発表しています。これは、埼玉県内の高校司書の投票で選ばれているもの。本屋大賞の埼玉県高校版ですね。

2010年度、初代の第1位は『世界で一番美しい元素図鑑』。きれいな本で、持っているだけで司書がモテモテになれるんだそう。

2011年度の第1位は、本屋大賞でも1位を獲得し、映画化もされた『舟を編む』。読後は図書館の辞書コーナーへダッシュしたくなること間違いなしとのこと。

2012年度の第1位は『楽園のカンヴァス』。読んだら絶対にルソーの絵が見たくなるそうですよ。

これらのイチオシ本は、カーリルのレシピを使ってご紹介頂いています。気になる本が近くの図書館にあるか、探してみてくださいね。

学校図書館を、もっと楽しく

埼玉県高校図書館フェスティバルは、ここで一区切り。今後はウェブサイトの更新を中心に活動していくそうです。

図書館は楽しいものだということを、色々な活動を通してもっとたくさんの高校生に伝えたい。そして学校司書の価値を知ってほしい。そんな熱い気持ちは、まだまだ衰えたわけではありません。

会場には、埼玉だけでなく、東京や神奈川、茨城からの参加者もあり、インターネット中継では鹿児島の方もご覧になっていたそうです。フェスティバルは終わっても、今後も熱い司書たちの活躍で、どんどん図書館が楽しくなっていきそうですね。

(杉山@カーリル

<関連リンク>
埼玉県高校図書館フェスティバル
埼玉県高校図書館フェスティバル公式Twitter
埼玉県高校図書館フェスティバル実行委員会プロフィール|カーリル

じわじわと地域に根づく「まちライブラリー」

まちライブラリーの提唱者:磯井純充さんが主催する2013年4月にオープンしたばかりの”まちライブラリー@大阪府立大学”にカーリルが遊びに行って来ました。

驚いたのが、本の並べ方が丁寧なこと!そのワケは、まちライブラリーではイベントやワークショップを行い、テーマに沿った本を一冊参加費として持ち込んでもらい、テーマごとに設置、集う人の顔が見える本棚を作っているからだそうです。例えばデザインの本棚では納豆や食が専門的なデザイン本と並んでいたりと、1つのジャンルの広さや深さを手にとって見える、そんな本棚です。

その他にも、郷土資料と一緒にお酒や酢(?)などの特産品やグッズなども本の世界を広げるツールとして展示されています。これだけでも、本の持つ世界観や1つの物事に対する熱心さが伝わってきました。
参加費として持ち込んだ本には、自分がおすすめしたい理由をシート書き、つぎに読む方の本への想像をふくらませます。

本を読むだけで物足りない方は自分で本を通じてのワークショップを立ち上げても良いそうなので、もっと見聞を広めたいという方にもオススメかもしれません。
会員登録するだけで、開館日にはいつでも利用できるそうです。お近くにお越しの際は覗いてみると新たな図書館の発見があるかもしれません。

公式サイト http://opu.is-library.jp/
Facebookページ https://www.facebook.com/machilibrary.namba

※まちライブラリーとは、自宅・カフェ・オフィス・居酒屋など、まちのあちこちに共有本棚を設置。メッセージをつけた本を通じて地域に働き、住み、訪ねる人々が仲良く、お互いに知り合える関係を作るムーブメントです。

投稿:黒田@カーリル

大学の授業でもカーリルを活用して頂いています!

カーリルが、大学図書館や大学生にも活用されるようになっています。

図書館の使い方や、大学生活で必要な資料の探し方を紹介する授業でカーリルを紹介頂いていると聞いて、東京家政大学にお邪魔しました。

東京家政大学には、全学共通教育科目として、1年次の前期に「実践情報活用Ⅰ」という必修科目があります。全15回分のうち、1コマが図書館で行われ、図書館の職員が講師を担当します。

図書館の使い方、大学図書館に所蔵されている資料のOPAC(*)を使って探す方法、大学図書館に資料がない場合にどうしたらいいか等をPCを使いながら学びます。

OPACを使うのが初めてという学生さんもいたようですが、さすがデジタルネイティブ世代。操作がわからなくて戸惑うという方は殆どいないようでした。

大学図書館に資料がない場合や、貸し出し中の場合は、近隣の公共図書館等を使うこともできるということで、カーリルもご紹介頂きました。

授業のテキストでもカーリルをご紹介頂いています。たくさんの方に活用頂けたら嬉しいです。

*OPAC・・・Online Public Access Catalogの略。web上の蔵書検索システムのこと。

(杉山@カーリル

<関連リンク>
東京家政大学
東京家政大学図書館|カーリル

リアル”図書館戦争”を考える―戦時下の図書館は自由を守るために戦ったのか

本日4月27日(土)から、有川浩原作・映画図書館戦争の全国ロードショーが始まりました。

(photo by The U.S. Army

舞台は「公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を取り締まる法律」として成立した「メディア良化法」が「すべてのメディアの監視権」を持つ検閲の道具となり、不適切としたメディアを自在に排除出来るようになってから30年が経過した近未来の日本。

メディア良化法を運用する「メディア良化委員会」とその実行組織「良化特務機関(メディア良化隊)」は年々強権的な言論弾圧を強めてきた。 図書狩りに対抗して、公共図書館は蔵書の収集所蔵と提供の自由を守るため、「図書館の自由に関する宣言」を元に成立した「図書館の自由法」を盾に、武力に対して武力で抵抗する「図書隊」を創設し、激しい抵抗を続けている。
(あらすじはWikipediaより)

この作品の原点でもある「図書館の自由に関する宣言」。これは日本図書館協会が採択した、実在する宣言です。

図書館の自由に関する宣言
 第1 図書館は資料収集の自由を有する
 第2 図書館は資料提供の自由を有する
 第3 図書館は利用者の秘密を守る
 第4 図書館はすべての検閲に反対する
図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。

採択されたのは1954年、第二次世界大戦が終結して約10年後です。
ではリアル戦時中、日本の図書館はどんな様子だったのでしょうか。

図書館で、1冊の本を見つけました。
清水正三編戦争と図書館(白石書店)。
1977年に発行されたこの本の記述から、リアル”戦争”の中の図書館を見ていきたいと思います。

戦前、図書館令により中央図書館体制が布かれる

日本が国際連盟を脱退した昭和8年(1933年)、「図書館令」が大幅に改正されました。改正の要点は大きく4つでしたが、注目すべきは2つ。私立図書館の認可制と中央図書館制度が新設されたことだったそうです。

中央図書館制度でいうところの「中央図書館」は、現在の、自治体に複数の図書館がある場合に中心的役割をなす、というものとは性格が異なります。「「中央図書館制度」というのは、条文上は都道府県を単位に、中央図書館が管下の図書館を指導・連絡・統一をはかるという名目であったが、本質は、戦時文化統制の一環としての図書館統制であった。(41ページ)」
自治体の組織に関係なく、文部省の指定した中央図書館が存在することになったのです。

私立図書館が認可制となった背景には、「私立図書館中には堂々公立図書館を凌ぐものもあるけれども、概ね貧弱なものが多く、動もすれば図書館の美名に副はぬものさへあるやうな有様で、私立図書館を放任することにより、延いて公立図書館の質を低下せしめ、其価値を疑はしむる虞があるに至ったので、今般の改正をみたわけである(31ページ)」という建前があったようです。

しかし実際には、発禁書の統制をするための認可制だったようです。中央図書館制度と合わせて、国民の思想を戦争に都合の良い方向に導くための改正だったのでしょう。

戦時中、多くの図書館は思考を停止。数多の図書が闇に葬られた

図書館令の改正された翌昭和9年(1934年)、今度は「出版法」が改正されます。罰則行為の対象に、新たに「皇室ノ尊厳ヲ冒瀆」する出版行為と「安寧秩序ヲ妨害スル出版行為」が加えられました。筆者は「このような状況が、図書館における図書選択の自己規制を招き、読書の自由を侵していったことは明らか(66ページ)」だと述べています。

ある図書館では図書購入費の80%が産業関係図書になったり、ある図書館では蔵書の中に『マルクス主義の根本問題』などが含まれていたことで館長が市議会にに攻撃されるという事件も起きたそうです。

「少なくも公共図書館では、「保留」あるいは「任意提出」というかたちで、特定の資料が国民の目から隠されていたったことは事実である。しかも、これらの事実は、ほとんど新聞記事として報道されなかった。(67ページ)」

また「戦前の図書館では、現在多くの図書館が採用している開架式を採用している館は少く、町村の小図書館に至るまで出納式の図書館が多かった。それらの図書館は、ほとんど「閲覧票」を使用しており、利用者(閲覧者)は、入館に際して、その閲覧票に住所、氏名、職業、借用する図書名、そして年齢まで書かなければならなかった。(中略)閲覧票は金券視され、また統計資料として図書館に一定期間保管された。(82ページ)」

つまり、誰がどんな本を読んだのかがわかるようになっていたということ。「この閲覧票が、警察や憲兵隊からの思想調査の対象となった。(82ページ)」とあるように、一定の図書を読んだ人を探すようなことも行われていたようです。

特定の著者への執筆禁止や、警察からの度々の「閲覧禁止図書」通知により図書を倉庫に放り込むなど、戦争に都合の悪いものは市民に提供されなくなっていきました。多くの図書館は、声を上げるでもなく、黙々とその方針に従っていきます。

「戦争中、官憲による図書没収等に協力し、または無関心であった図書館は、敗戦後、連合軍の進駐に伴い、再び同じ過ちをおかした。(80ページ)」とあるように、終戦後も同じことが起こっていたことがわかります。

思想の自由を守ろうと戦う図書館もあった

しかしその一方で、官憲のやり方に疑問を持ち、人々の自己学習・知る権利を守ろうとする図書館もありました。

社会主義者、共産主義者を弾圧、1600人を検挙した三・一五事件が起こった昭和3年(1928年)、第22回図書館大会が実施されました。この大会に対して文部大臣から「輓近我ガ国ニ於ケル思想ノ趨向ニ鑑ミ図書館ニ於テ特ニ留意スベキ事項如何」という諮問が行われ、大会で答申案が報告されました。答申案には、図書館自らが図書の検閲を実施する旨の文言が盛り込まれていたのです。これに多くの図書館員が反発します。検閲すべきではない、図書選択はそれぞれの図書館が基準を定めればよい、良書・悪書の判断は何に基づいて誰が行うのか、等。そうして答申案は修正されることとなりました。

(しかし、修正案でも結局、図書選定は文部省頼み、検閲は強化する方向になってしまったようです。)

また、弾圧の歴史を日誌に記録した図書館もありました。警察等の手から図書を守り抜いた図書館もありました。「東京の芝増上寺境内にある「三康図書館」には、「憲秩紊本」と称する図書が多数所蔵されているとのことである。この本は戦時下の言論弾圧の中で、基本カードをかくして押収を免れた本だそう(77ページ)」です。

こうした人たちの尽力に敬意を表し、反体制的な図書が喪失しなかったケースもあったようです。

戦後の図書館と「図書館の自由に関する宣言」

50年代の前半、アメリカでは「赤狩り」が行われ、図書館もその影響を受けます。同じ頃、日本でも警察による書店や図書館での「読書調査」が行われる事件があり、図書館界で問題となってきました。これを機に「図書館の中立性」に関する議論が起こりました。

また、昭和25年(1950年)には、図書館令にかわって「図書館法」が制定されます。

このような機運の中、昭和29年(1954年)の第7回全国図書館大会において「図書館の自由に関する宣言」が採択されるに至ります。「思えば、日本の図書館界は、このときはじめて、従来の「思想善導」機関から、民衆の知的自由を確保する機関へと脱皮するため、「図書館の自由」の旗幟を高く掲げたといってよい。(85ページ)」

図書館が新しく生まれ変わった瞬間だったのかもしれませんね。

図書館の歴史や戦時中のことをもっと知りたい方は

簡単にまとめましたが実は奥が深いリアル図書館戦争のお話でした。
映画「図書館戦争」を見たら、図書館でもっと深く、図書館のこと調べてみませんか。
今回ご紹介した内容は、『戦争と図書館』のほんの一部です。
本書には、図書館長を務めた方の手記や、新聞記事の抜粋なども掲載されています。詳しく知りたい方は、ぜひ『戦争と図書館』にあたってみてくださいね。

また、他にも参考になりそうな資料をあげますので、こちらもぜひご参照ください。

戦争と図書館』 清水正三編 白石書店 1977年
千代田図書館八十年史』 東京都千代田区 1968年
図書館の政治学』 東條文規 青弓社 2006年
東京の近代図書館史』 佐藤政孝 新風舎 1998年
他、図書館史

※この記事は、杉山@カーリルが『戦争と図書館』を読んでまとめたものです。事実関係など多少理解が間違っている部分があるかもしれませんが、そっとご指摘頂けたら幸いです。なお、資料収集にあたっては、千代田区立千代田図書館を利用させていただきました。

(杉山@カーリル

<関連リンク>
映画「図書館戦争」公式サイト
図書館の自由に関する宣言
図書館法