「大学読書人大賞」公開討論会に行ってきました

5月15日(日)、今年の大賞を決定する「大学読書人大賞」公開討論会が行われました。
大学読書人大賞とは、活字好きの若者による、活字好きの若者のための年に一度の本のお祭りです。
日本に200以上ある文学賞の中でも、一般読者によって選ばれるのはこの「大学読書人大賞」だけ。
大賞がどのようにして決定されるのか、カーリルも参加してきました。

(対象候補作一覧や、候補作決定までの流れはレシピ「2011大学読書人大賞」をご覧ください)


まずは受付。
運営は全て実行委員の大学生の手によって行われています。


受付を入ると大学読書人大賞最終候補作が並んでいます。


会場では多くの大学生が討論会に注目しています。

討論会は、推薦者からのプレゼンテーションの後、登壇者全員での討論が行われます。
以下、推薦書と推薦文、簡単な討論の内容をご紹介します。


推薦書『インシテミル
推薦文「クウキヨンデミル」by 明治大学ミステリ研究会 綱島大樹さん

本書はクローズドサークルを扱った本格ミステリであるが、ここでは〈暗鬼館〉事件の根底に深く関わっている「空気」について述べたいと思う。

空気は読むものなのか、否、つくるものなのだ。
では空気を作るとは一体どういうことなのか。
と、「空気」についての様々な意見が交わされました。


推薦書『虐殺器官
推薦文「私達は虐殺をする」by 慶應義塾大学三田文学塾生会 斎藤妙子さん

本当に大切な人を守りたいと思った時、あなたはどうするだろうか?

家族は大切で守るべきものなのか、そもそも家族なんてどうでもいいという人だっているのではないのか。
会場からも質問が飛び出しました。


推薦書『告白
推薦文「地を這う文学」by 法政大学文学研究会 森太一郎さん

いきなり過激な話かもしれないが、ぜひ想像してみてほしい。もし私たちが死ぬ時、長いようで短い人生の道のりを歩んできて、そのうえで抱えてきた様々な問題は、事切れる前に綺麗に決着がついて、ハッピーエンドで終われるのだろうか。

発表者はこの作品をリアルだととらえているが、自分には身近に感じられない。
ノンフィクションの方がよほど身に迫る思いがするのではないか。
「リアルさ」とは何かについて討論されました。


推薦書『これからの正義の話をしよう
推薦文「いざ起て読書人よ」by 関西学院大学文芸部 前田龍成さん

哲学は全ての学問の基礎である。哲学なくして万学は成り立たず、万学に派生せぬ哲学は屋根と床を作らぬ家に等しい。

はたして筆者の言う「正義」とは本当に正しいのだろうか。
受け取り方について議論が盛り上がりました。


推薦書『砂漠
推薦文「砂漠に出る前に」by 法政大学もの書き同盟 黒木真菜さん

社会人がからからに乾いた砂漠にいるなら、大学生はみずみずしいオアシスにいる、というわけではない。

自分たちが送っている大学生活を、本書を通して再度疑似体験する必要はあるのだろうか。
大学生活の過ごし方と意義についてそれぞれの見解が示されました。


推薦書『天地明察
推薦文「暦を作った男、渋川春海とその息吹」by 関西大学現代文学研究部 和田晴子さん

渋川春海と聞いて、ピンとくる人はいるだろうか。ちなみに私はすぐに誰だかわかった。たしかあの、一行の男だ。

主人公の渋川春海についてもっと色々なエピソードを聞かせてほしいという声が上がりました。
推薦者の熱い思いが伝わり、会場も渋川春海に魅了されたようでした。

大賞の最終決定は、プレゼンターが自分以外の作品に得点を付け、最高得点を獲得した作品が大学読書人大賞となります。


今年の最高得点は、主人公の魅力に焦点を当てた『天地明察』に決定しました!


討論会のコーディネータをなさったフリーライターの永江朗(@nagaeakira)さんからは、大賞に東日本大震災で被災された冲方丁さんの作品が選ばれたのには意味があるように思う。
また大学生がこのように多くの作品を多面的な読み方をしているのがわかって嬉しい。
これからも若者の読書が広がっていくことを願う、という講評がありました。

大賞の推薦者、和田さんにお話を聞きました。

普段本を読まない私の推薦で大賞が決まったなんて信じられません。
嬉しいです。
多くの方に主人公渋川春海の魅力を知ってほしいです。ということでした。

普段はサークルで小説を書くのがメインで、本は月に3~4冊しか読まないのだとか。
主人公への愛が皆に伝わったのではないでしょうか。

最後に、実行委員長の大西蘭子さんと副委員長の新田柊平さんからお話を聞きました。

大学読書人大賞を通して多くの人に会えたり、公開討論会を楽しんでもらえるのが嬉しいしやりがいを感じます。
時に実行委員の業務が大変なこともありますが、これからも文学好きな若者にもっと参加してもらって、大賞の質を高めていきたいです。

それから、ゴホン教授(写真)もよろしくお願いします!

6月には、大賞作の著者・冲方丁さんを招いての授賞式と交流会も予定されているとのこと。
めったにない機会、楽しみですね。

大学読書人大賞は開かれた文学賞です。
今まで大学読書人大賞をご存じなかった大学生の皆さん、2012年度の選書にぜひ参加してみませんか?

▽最終候補作をまとめて検索
 カーリル・レシピ 2011大学読書人大賞

▽大学読書人大賞
 http://www.jpic.or.jp/dokushojin/

▽大学読書人大賞 on Twitter

【論文】カーリル開発の核心〜コンセプト、組織、技術〜

既存の図書館システムとは大きく異なる開発組織、自治体を横断する検索機能、超短期間の開発、Twitterなどによるユーザー参加型の開発はどのように実現されたのか。

それらのヒントになるような情報をまとめた論文を雑誌「専門図書館」に寄稿しました。その論文をPDFで公開しましたので、お知らせします。

目次
1. はじめに

2. 開発の背景

3. 楽しい図書館検索システムの提案
 3.1 本と出会う楽しみを提供
 3.2 検索を使って図書館を広報する
 3.3 地域資源の中心地としての図書館
 3.4 図書館にない本も検索
 3.5 外部サービスと連携して利便性を高める

4. 開発手法
 4.1 開発チームの構成
 4.2 開発期間とモチベーション
 4.3 ユーザーフィードバックに基づく修正

5. カーリルのシステム
 5.1 マッシュアップの活用
 5.2 開発言語
 5.3 分散処理
 5.4 図書館クラス
 5.5 OPACの管理
 5.6 図書館APIによる図書館システムの拡張
 5.7 図書館APIの利用例

6. 課題
 6.1 技術的課題
 6.2 ビジネスモデルの模索
 6.3 対応図書館の拡大

7. おわりに

…GoogleやAmazonなどの大規模な検索エンジンが一般に普及する中で、図書館システムも大きな曲がり角を迎えている。GoogleやAmazonは検索対象となる情報量が膨大であるだけでなく、高速であることや、検索結果の並び方が秀逸であること、利用方法がシンプルであることなど、それまでの検索エンジンの常識を覆し、広く一般に普及し、検索という行為を「日常的な行為」にまで落とし込むことに成功した。これに対して、日本の公共図書館システムは、規模、速度、精度、操作性において劣っていると言わざるを得ない。公共的な資金を毎年何十億という規模でつぎ込んでいる日本の公共図書館システムはなぜ対抗できないのだろうか。

本稿では、我々が日本の公共図書館システムのレベルアップも視野に入れて2010年3月に公開した日本最大級の図書館蔵書検索サイト「カーリル」 (http://calil.jp/)について紹介する。….

PDFダウンロード

本稿は専門図書館協議会発行機関誌「専門図書館」242号(2010年7月号)に掲載されたものです。

さらに開発技法に興味のある方は、以下の書籍をあわせて読むとより理解が深まります。

パターン、Wiki、XP

アート・オブ・アジャイル デベロップメント ―組織を成功に導くエクストリームプログラミング

Joel on Software

[ちょこっとレポート] 国立国会図書館にお邪魔してきました

カーリルのトップページは先日桜になったばかりですが、永田町では桜が散り始めていました。
花の盛りは短いですね。
だからこそ、その儚さに美を感じるんでしょう。

縁あって、国立国会図書館にお邪魔してきました。

初めて足を踏み入れたのですが、とっても広いですね!
さすが国内の刊行物を網羅しているだけあって、書庫も壮観です。
新館は何と地下8階まであって、東京で一番地下深くまで潜れるのだとか。
今回は残念ながら時間がなくて見学ができなかったのですが、吹き抜けになっている地下書庫を一番下から見上げる景色は格別とのこと。
また機会があったらぜひともお邪魔したいところです。

そして、情報システム担当の方々と、情報交換をさせて頂きました。

国立国会図書館(通称NDL)では現在、新しい情報検索サービスを開発していらっしゃいます。
「利用者がどこにいても、来館者と同様のサービスが受けられるように」等のビジョンの下、NDLで公共図書館や専門図書館等の情報を集約し、様々なルートで利用者に届ける。
それは例えば、NDLから直接だったり、大学図書館を通じてだったり、Google等のサービスプロバイダを通じてだったり。
単に刊行物(本としての形があるもの)だけではなく、Webページや様々なシステム上のデータベースからも情報を引っ張ってこられるというもの。

今まで、どこを調べたらほしい情報を入手できるかわからない、という壁にぶち当たったことのある方も多いと思いますが、その手間や壁を取り除いてくれる仕組みなんですね。

そしてこの情報検索サービス、カーリルと同様APIを公開予定!
色々な方がこれを利用して、より身近な、新しいサービスも作れるかもしれませんね。
三人寄れば文殊の知恵、十人十色、たくさんの頭で考えたら、たくさんの道が見えてくるはず。
楽しみです♪

「国立国会図書館」なんて名前を聞くと、ちょっと躊躇してしまうかもしれませんが、一般の方も利用できます。
館外貸出はありませんが、色んな資料を閲覧・視聴できますので、ぜひ一度足を運んでみてください。
(もちろん、カーリルも対応済みです!)
永田町に新しい発見があるかも。

ご利用の前には、利用上の注意をよく読みましょー
みんなの資料は大切に☆
http://www.ndl.go.jp/jp/service/use.html

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